苗圃見学会 参加報告
本見学会では、府内有数の苗木生産地である美原区と河南町の苗圃を見学することができた。樹木の生産・卸しの現場を実際に見たのは初めてであったが、両農園とも想像していたより大規模かつ多種多様な樹木を扱っており、造園樹木を扱う上で大変参考となった。
全体を通して学んだことは、新たな樹種の発見と、樹木の新たな機能や性質の2点である。ギルドエッジやヤマグルマ、ハイノキなど通常の公園工事などでも活用できる可能性がある樹木や、イチゴノキやプンゲンストウヒなどの珍しい樹木を知ることができた。また、現在公園樹としての利用はほとんどされていないアカシデは、幹肌が美しく強いので緑化樹に向いていることなど、樹木のことをよく知れば様々な利用ができることがわかった。
一方で、生産者の方々とお話して気付いたこともある。近年、不況や後継者不足といった諸問題により樹木の生産量が年々減少しまとまった量の樹木が供給できないことで、我々が仕事を進めるうえでも注意すべきことも多い。また、根本的な話になるが、樹木の特徴を知らないまま使用している事例が見受けられるとの指摘もあり、反省すべき点もあった。このような機会を得て直接生産者の方々とお話しできたことは大変有意義であった。
以下に、各農園で見聞きした内容をまとめる。
スギタ農園
全般
- 植木のパイがどんどん減っている。後継者不足という時代の流れ。バブル以降、需要低下により作付量が減少していることで、供給量が減りつつある。
※我々発注者側としては、計画的な発注が必要であり、事前に総量を問合せてから設計する。 - スギタ農園は樹木の生産はしておらず、卸し専門の農園であった。このような形態の農園があることを初めて知った。樹木のデパートを目指しているとのこと。全国から苗木を買い付けて、ある程度の大きさ形にして付加価値をつけて売っている(年に数回、関東や東北まで回って買い付け。東北では薪炭林として使われていたところの雑木なども買う)。
- 斑入りや黄色などの葉の植物:全般的にはやや弱いものが多い。原種の方がやはり強い。
- マツ、マキの仕立て:作り方に驚き。太い幹をバッサリと切り、吹いた枝を仕立てていく。これで大きく付加価値がつく。中国などに人気。
- 株立ちの樹木:一般的に売っている株立ちは、数本の寄せ植えによるもの。本当の株立ち物は根株の部分をしっかり見せている。
- いつでも出せるよう、毎年植え替えを行っている。
個々の植物について
- ギルドエッジ(斑入りナワシログミ):中木。水切れに強い。常緑で黄色の縁が美しい。花と実は目立たない。
- 常緑ガマズミ(強い)、常緑ネムノキ
- カラタネオガタマ(生産されている)バナナの香り
- ハイノキ(クロバイ):半日陰で育つ。夏ごろに白い花。繊細な感じ。庭木としてシマトネリコの替わりに使える。
- ハジュノキ(実が面白い)
- フェイジョア(薄紫):実の食べごろは8月。
- イチゴノキ:観賞用。実も見るもの。食用不可。
- ベニバナトキワマンサク:年2回咲き
- ロードレイヤー:熊取のレンガ館横にある。公園にも良い。
- ナナミノキ
- レイランディー・シルバーダスト:葉に白い斑が入る。ゴールドもあり。大きく育つ。
- センペルセコイア
- 荒川モミジ:幹がゴツゴツ。人気が出始めている。
古川庭樹園
全般
- 大手の会社ばかりに植栽工事が行っている。
- 今では造園より建築の人の方がよく見に来て勉強している。建築はデザイン力がある。
※建築は空間の上下が決まっているが、庭は上も下も決まっていない(地下も空も庭の一部)。 - 雑木系を多く育てている。
- ネニサンソ、炭は良い。バークは2年しかもたない上に、雑草が多い。
- 植栽するときには小さめの樹木を植えるべし。苗木から育てる方が環境になじむ。
- 小さくても、良い空間を作っていくべき
- 緑化は覚悟がいる。メンテしていかなければならない。でもその良さをうたっていく必要ある。
鶴見緑地はゴミの山を花いっぱいにした。 - 花を見せる場合、バックは緑でないと。
- 苗圃であるが、その樹木が本来生えている土地の形態を考えて植えている(東北の雑木林など)。
- オリーブを大規模に栽培。知られていない。
- 天王寺動物園からユーカリ栽培の委託を受けて生産している。7種類。
個々の植物について
- ヤマコウバシ:受験の木(枯れても葉が落ちない)。
- サワフタギ
- テンダイウヤク:熊野に自生。和紙の原料にもなる。
- 常緑マユミ
- ハクサンボク
- アカシデ(ソロ):強い。幹肌が美しい。公園樹に良い。
- 10月ザクラ:オオサカフユザクラという別名を付けた人がいる。名所になる。
- イジュ:中木。強い。
- ホルトノキ、ヤブニッケイ、トキワマンサク:強い。
- プンゲンストウヒ:暑さに弱いがきれい。
- ノシバ:公園にはこれ。
- ゴモジュ
- ツツジ:大阪にはヒラドが良い。
- ヤマグルマ:耐陰性あり。カクレミノにかわるもの。
- ナナミノキ:関西に自生している
- キンキマメザクラ:美しい。だが流通していない。
- カイノキ(楷樹):学問の木。紅葉が美しい。
- ケヤキ・エノキ:大阪ならケヤキよりエノキ。
資源として活かす取り組みのご提案
今回見学させていただいた苗木生産地は、双方共に大変面白い場所であると感じた。
日頃見ることのできない海外の木や山奥にある木、庭園用に仕立てた特徴的な形の木などが多数あり、気軽に樹木と出会うことができる。このような場所は他にはなく、「樹木のテーマパーク」であると思う。これは一般の方が見ても魅力的な場所ではないだろうか。
そこで、あくまで個人的主観であるが以下の2点を提案する。
苗木生産地をより多くの方に知っていただくことで、樹木のファンを増やし、みどりのまちづくりや園芸・造園等に関する関心が増えることを期待したい。
1. 様々な場としての活用
多様な樹木のある畑空間は、いろいろな活用方法があると思われる。その一例を挙げる。
<森林セラピー>
近年の癒しブームを受け、鳥取県や滋賀県では森林セラピーを森づくりの一環として行っている。しかし、場所が遠方であるため本来癒しが必要な都市住民の利用は難しい。そのため都市近郊に立地する空間は大変貴重であると共に、公園などとは異なり不特定多数の利用がない空間は、セラピーを行う場所としては有効な選択肢になりえるのではないだろうか。また、森林セラピーを行うにはセラピストという指導者が必要だが、苗木生産地には樹木に精通している生産者の方々がおり、資格を取得することも容易ではないだろうか。
<森の幼稚園>
教育の場としての活用も考えられる。森の幼稚園が全国的に人気となっており、府内でもわずかであるが活動が始まっている。子どもにとって自然と触れ合える場は貴重であり、多種多様な樹木は子どもの感性を刺激する良い資源となるのではないだろうか。
2. まちづくりとの連携
周囲を見渡してみても、多数の苗木生産地が存在すると共に、田畑や雑木林などが残る里地の風景があり、散策やウォーキングを楽しむには好立地であると思われる。近年の健康ブームなどでウォーキングが流行しており、都市部においてもマップを片手に散策を楽しむウォーキング愛好者は増加しており、まちづくりの観点からも注目されている。
古川庭樹園さんは「オープンナーセリー」として畑を一般に開放されており、その取り組みは大変素晴らしいと感じた。周囲の施設などと連携して、苗木生産地の魅力を地域全体に発信されてはどうだろうか。
このような手法として近年注目されているのが「フットパス」を活用した活動である。地域と人を元気にする手法として、地域活性化やまちづくりの手法として活用されている。もともとフットパスは歩く道のことであるが、発祥の英国では「美しい小径」とされており、森や牧場などを歩くウォーキングルートが無数に作られ、美しいマップと共に紹介されている。多くの方がその地域を楽しむことができるうえ、人が来ることでその地域も元気になり活性化するという考え方である。
双方ともに、施設の景観も含め魅力的な地域にあり、十分にフットパス手法が成り立つ地域であると感じた。